2010年4月21日水曜日

タイトル『達磨の大将』

1
あるところに達磨の村がありました。達磨の村は農業が盛んでした。農家一つ一つには農業の知識の深い達磨の大将がいました。ある程度の年齢になると農家を目指す若い子達磨たちは達磨の大将について一年間一生懸命農業を学ぶ決まりでした
そして達磨の大将は彼らを教育し、一年間子達磨たちを守る代わりに、子達磨たちは大将に忠誠を誓い、一生懸命畑仕事をして働きました

2
その村の中にちょっぴりいばりんぼうな達磨の大将がいました。達磨の大将はずっと子達磨たちの受け入れを面倒くさくて断っていましたが、とうとう村の長老から小言をもらったので、どうやら今年は受け入れない訳に行かなくなったのです。

大将のもとで働いていた達磨農民は大喜び。小達磨の受け入れ期間には、仕事が減るからです。このちょっぴりいばりんぼうな達磨の大将はちょっと何かを間違えただけですぐガミガミと体を更にぽっぽと赤くして怒鳴るので、影で“炎達磨"と呼ばれ、ちょっぴり嫌われていたのです
その上達磨の大将の農家は、支持通りに働いているのに他の農家に比べあまり作物が採れなくないので、働いている達磨たちには不満があったのです。
そしてとうとう子達磨たちを受け入れる日がやってきました。

3
「おはようございます」
大きな元気のいい声が外から聞こえました。
ガラガラ……ッと扉を開けると、そこには、三つの小さな身長の揃った子達磨がいました。まだ寒い時期だったのと(そのころはまだ年が明けたばかりの1月でした)少し緊張しているようで、期待を込めて目をパッチリ開けて、白い頬はピンクに染まっていました

「はっ。たったの三人か」

達磨の大将はいかにもつまらなそうにいいました。内心は面倒が減って良かったと思っていたのですが、口ではいつも悪いように言ってしまうのです。

4
「まずお前たちに教えなければならないことがある」
取り敢えず家に入れてやってから、達磨の大将はでんと構えて言いました。

「いいか。一番大切なことだ。農業をやる上で最も大切なことだぞ

そこで三人の子達磨は黒いキラキラ光る宝石のような目を更に見開いて一生懸命に大将の方を見ました。
「それは『主人である達磨の大将にしっかり仕えること』だ。つまりな、達磨の大将の言うことは絶対なのだ。分かったな。これだけ分かれば今日はよろしい。非常に大切なことだ。よく覚えておくんだぞ

「はいっ」子達磨逹は風呂敷の中から白紙の巻物を出すと、一生懸命に今日教えられたことを、メモするのでした。

5
『主人である達磨の大将にしっかり仕える』ことをいつも心に置いていましたから、勿論三人だけの時にはつい愚痴をこぼすこともありましたが、つらいことを耐えて決して逆らうことはしませんでした。
実は達磨の大将の教えたけの決まりごとは達磨の大将が勝手に自分が都合の良いように考えたものでしたが、子達磨たちは勿論そんなことは知らなかったのです。
そういったこともあって子達磨たちはいつも達磨の大将に仕えている、大人の農民の達磨たちよりよく自分に仕えてくれるので、達磨の大将はいばりがいがあると内心とても喜んでいました。

6
そんな生活が1ヶ月ほど続いた頃、2月に入ってから達磨の大将はある集まりに呼ばれました。それは村の長老の百歳の記念の宴でした。達磨の村では長老は最も権威のある達磨でしたから、村中の人たちがその日は長老の屋敷に呼ばれ、その長寿を祝う予定でした
しかしお酒の席なので小さな子達磨たちは留守番をすることになりました。

7
さていよいよ宴の日。
達磨の大将は長老の屋敷に出掛けました。村のあちこちから、達磨の大将と同じようにどっしりとした体格の大将たちが座っています。宴も盛り上がってきたとき、達磨の大将の農地からすぐ西にある農地の大将が、大将同士で酒の飲み比べをしようと言い出しました。実はこうみえて達磨の大将はお酒が弱かったのですが、西の大将の態度が偉そうで気にくわなかったので(本当は本人とそう変わらないのですが)、これはヤツをこらしめる良い機会と考え
「その勝負、わしものった」とすぐに叫びました。

8
み比べても、飲み比べても、飲んでも、飲んでも、いっこうに、どちらもやめません。

達磨の大将はドクドクとハヤガネのようにうつ心臓の音が他の達磨に聞こえるのではないかと思うようでした。西の大将も二人とも茹でダコのように真っ赤になって、もはや意地の張り合いで勝負を続けていました。
達磨の大将はお酒に弱いのでつらい戦いになりましたが、達磨の大将は最近子達磨たちに指示してばかりで自分はあまり働かず、楽をしていたので、体力が残っていたので、本当に微差で、西の大将に勝つことができました。
しかし達磨の大将はそんなことは知らず、自分の手柄だと思って、実に得意な気持ちになりました

9
かしそのあとが大変でした
なんだか気持ちが悪いし、頭はぐるぐるするし、なんだかまたイライラしてきてしまいました。

そんなこんなしているうちに宴は終わり、達磨の大将は足元もおぼつかず、ふらふらしながら家路に迎いました

もうすっかり夜でした。
深い深い深夜でした。
狐も小鳥も兎ももう寝ていました。

達磨はなんとか星明かりを辿って家の屋根を見つけました
すると……家の前に三つの小さい丸っぽいものが見えました。それは子達磨でした。達磨の大将の帰りがあんまり遅いので、心配して待っていたのです

10
かし、達磨の大将はまず三つの頭を見つけるとこう怒鳴りました。

「なんだ。お前たち。どうしてそこにいる。さては夜遅くまで外ほっつき歩いてたな。明日は朝から耕すから早く寝ろと言ったではないか

達磨の大将はすっかり怒ってしまいました。

待ち過ぎてうとうとしていた子達磨たちは、その声でハッとして、状況を飲み込むのに、しばらく間が必要だったのですが、達磨の大将は、それは、自分の言葉に無視しているように見えたのです

「わしが出掛けたからといっていい気になりよって。」お酒がすっかり回っていたのです。いくらいばりんぼうな達磨の大将でも普通の意識の時にここまで怒ったりはしなかったでしょう
達磨の大将はそう言ってずんずんと子達磨たちに近づくと、子達磨たちを掴んで畑に投げ飛ばしてしまいました

子達磨たちは可哀想にびっくりして気を失ってしまいました。

達磨の大将はそのまま家に入ると、バタッと倒れて眠り込んでしまいました。

11
チュンチュン……朝が来ました。黄色と白の柔らかい光の布が頬に当たって、達磨の大将は部屋の真ん中で目を覚ましました

子達磨たちに今日も朝の掃除を頼もうと思ってから、ハッとしました。子達磨たちがいません。

あいつら、さては逃げ出したか。そう思って慌てて外に出ると、真っ白な雪に包まれた畑がいつものようにキラキラと朝日に光っていました。
しかし、いつもと違うのは、畑に三人の子達磨の倒れている姿があるだけでした。

12 
さあ今度こそ達磨の大将は思い出しました。

全部全部思い出しました。しかしどんどん思い出すうちに、大将のあらあらしい赤い顔は、だんだんにしなびたナスのように青くなっていきました。
達磨の大将は急いで三人を家に入れました。三人は寝ていましたが、苦しそうでした
達磨の大将は三人を布団に寝かすと、鍋でお湯を沸かして、布につけてしぼり、三人の頭にのせてやりました。そして急いでお粥を作り始めました。

お粥がグツグツいってきた頃、一人の子達磨が「うっ……」と言って目を覚ましました。達磨の大将は鍋からさっと離れるとその子達磨の顔を覗きました。「おい。おい。分かるか。達磨の大将だ」するとその子達磨は蚊の鳴く声で言いました。「ああ……大将様……ご無事で良かった……このような状態では何もお手伝いできず……申し訳ありません
達磨の大将はそれを聞いてぼろぼろて涙をこぼしました。それは大きい大きい涙でした。何年振りに流したか分からない涙でした。
何か文句を言われることを予想していたからでした

達磨の大将はそれから、三人をつきっきりで看病しました。三人はすっかり体を悪くしてしまったのです

達磨の大将は自分のこれまでのことを反省しました。そして三人が謙虚に看病を受ける姿勢に、心を打たれてしまいました。今となってはなぜ三人が、あの日、深夜まで外にいたのかが理由を聞かずとも分かりました。

それだけに大将は夜になると、自分のやった愚かな行為が悲しくて、時々泣きながら静かに神様にお願いしました。

「お願いです。あの三人の可愛い子達磨たちをお守りください」
と。

13
して1ヶ月が過ぎて……三月になりました。
達磨の大将の願いは聞き届けられました。
三人の子達磨は元気になったのです。
達磨の大将はまた泣いてしまいました。しかし今度は嬉し泣きです。
桜が咲き出す頃、三人はすっかり良くなりました。 そして改めて、また初日のときのように、部屋の真ん中に三人を立たせ、達磨の大将がいいました

『今から大事なことを教える。わしは以前お前たちに間違ったことを教えた。農業で一番大切なことは『お互いを思いやり、協力し合うこと』だ。このことをわしも忘れていた。教えてくれたのはお前たちだ。わしは本当にいい弟子を持った」

14
それから三人の子達磨たちは指導は厳しくても、思いやりのある、達磨の大将のもとでメキメキと力をつけ、立派な農民達磨になりました

そして弟子たちが去ったあと、達磨の大将の畑からは以前よりも沢山の作物が取れるようになったのです

でたしめでたし。



話、   瑤子さん。
絵、   Mazza

0 件のコメント: